
「自分一人ですべてを完璧にしなきゃ!」と頑張りすぎてしまう「個育て(孤育て)」。
ママのためのトータルケアサロン「SVAHA」、オーナーの小林睦子さんにお話を伺った対談前編は、そんな孤独な子育ての中で、知らず知らずのうちに心をすり減らしているママたちの本音に、優しく寄り添ってくれるものでした。
後編はさらに深く、ママの「身体」と「本能」に突き刺さるお話になりました。
特に私がハッとさせられたのは、お産直後のたった「48時間」が、その後の「10年分」の親子関係を左右するという驚きの事実です。
無痛分娩、自然分娩、ホルモン分泌、母子の覚醒リズム。選択の前に知っておくべき医学的視点と身体の仕組みがあります。
小林さんの言葉は、日々必死に走り続けている私自身の胸にも、鋭く、そして優しく響きました。
読み終えたとき、きっと皆さんの肩から力が抜けて、わが子を抱きしめる感触が今まで以上に愛おしく変わるはず。
そんな渾身のメッセージを、私と一緒に受け取ってください。

無痛分娩と「身体の声」に向き合うことの重要性
香織:ところで、東京のほうでは何かお産について特徴的な傾向はありますか?
小林:一番は無痛分娩が多いことでしょうね。しかし、無条件で「無痛分娩=スムーズな出産」であるという見方になってしまうのは問題だと感じています。
香織:私もです。これから出産を考えていく方々には、「自然な陣痛を待つプロセス」の大切さをしっかり理解したうえで、自分にとってどんな分娩方法がいいのか、しっかり考えてほしいと切に願っています。
小林:実は、自然な陣痛を待つプロセスでは、ママの身体から「天然のモルヒネ」とも呼ばれるような、痛みを和らげ多幸感をもたらすホルモンが分泌されます(※1)。ここれが陣痛の波とともにピークに達することで、赤ちゃんを外の世界へ力強く押し出すための最高のアシストをしてくれるんです。ちなみに、このホルモン分泌は、母子双方の愛着形成に関わる可能性についても注目されていますね。
香織:だから自然な陣痛を待って出産するママは、「生む瞬間に心の底から幸せを感じられる」と話す方が多いですものね。人間の身体って、本当に神秘的でうまくできていますよね。
小林:それを知らずに「ただ痛いのは怖いから」という理由だけで選択肢を絞ってしまうのは、自分の身体が持つ本来の力や、出産がもたらす大きな喜びから目を背けてしまうようで、もったいないことかもしれません。
香織:あの幸福感は、本当に言葉で言い表せないくらいの喜びですからね。この不思議なメカニズムがあるからこそ、女性は出産という大仕事を乗り越え、産んだ瞬間にわが子を愛しむ力が湧いてくるんじゃないかと思います。
※1:自然分娩の過程では、エンドルフィンやオキシトシンといったホルモンが分泌されることが知られています。これらは痛みの緩和や母子の相互作用に関わる可能性が指摘されており、産科・発達心理学の分野で研究が続けられています。

小林:あと無痛分娩を考える時に知っておいてほしいのが、出産直後の母子の絆づくりの問題です。
香織:どんな問題があるんでしょう?
小林:赤ちゃんが生まれてからの48時間は、意識がハッキリしている「覚醒」と「まどろみ」を細かく繰り返していると考えられているんです。ある学説では、このわずか2日間の間に、「赤ちゃんが泣いて不安を訴える⇒ママがその目を見て応える⇒安心させてあげる」という濃密なやり取りの積み重ねが重要だと考えられているんです。なんと、この絆づくりが、その後の10年分の子育てに匹敵するほどの信頼関係の土台を作る、大切な時間だとされているんです。
香織:2日間が、10年分……! そんなに凝縮された時間だったなんて、驚きです。
小林:ここで考えたいのがお薬の影響です。無痛分娩の場合、ママの血液を介してどうしても赤ちゃんにも麻酔薬が届きます。そうすると、赤ちゃんが本来持っている「覚醒とまどろみ」のリズムが薬の影響で鈍くなってしまう可能性がありますよね。
香織:つまり10年分の子育てに匹敵するほどの信頼関係が…なくなる?
小林:これって実は怖いことじゃないですか? また、ママたちは「自分が痛くないから、赤ちゃんも楽に生まれてきているはず」と誤解しがちなのですが、実際はママのいきみによるアシストがない分、赤ちゃん側は自然分娩の2倍も3倍も苦しい思いをして産道を通り抜けている、という指摘もあります。
香織:ママが楽をすることが、必ずしも赤ちゃんの「楽」とイコールではない可能性があるということですね。それを知った上で選択するのと、知らずに「楽だから」と選ぶのでは、産後の赤ちゃんへの向き合い方も変わってきそうです。
小林:ええ。無痛分娩という選択を否定するわけではありませんが、人体の生涯という長いスパンで見た時の影響については、まだ研究の歴史が浅く、分かっていないことも多いのが現状です(※2)。だからこそ、表面的な「痛みの有無」だけでなく、赤ちゃんの生命のリズムという視点からも、お産という奇跡の時間を捉え直してほしいなと思います。
※2:無痛分娩は、適切な医療体制のもとで広く行われている分娩方法の一つです。一方で、分娩方法の選択については、痛みの有無だけでなく、母体の状態や医師の判断を含め総合的に考える必要があります。各国のガイドラインや医学研究でも、安全性や影響について検討が重ねられています。

都会を生きるママを縛る「戦闘モード」という過緊張
香織:東京のような大都市で無痛分娩の選択が増えるのは、積極的にキャリアを積んでいるママさんが多いことも関係しているでしょうか。小林さんの目には、彼女たちが置かれている環境はどう映っていますか?
小林:ビジネスシーンで男性と同じような「ある種の戦闘モード」で戦い抜いているママさんを見ると、本当に大変そうだと感じます。ビジネスの場ではそれでいいかもしれませんが、私が問題だと感じるのは、そのモードのままで出産と育児を考えてしまうことですね。都会ではキャリア、復職、経済的プレッシャーなどの影響で、「交感神経優位」の生活が続きがちです。でも本来出産では、副交感神経が優位になる環境が望ましいとされているので真反対の環境になってしまうんですよね。
香織:モードを切り替えることって、案外難しいものですよね。私も以前、大企業で働いていた頃はまさに「戦闘モード」一辺倒で生活していたように思います。今の環境になってようやくストレスから解放されましたが、確かにあのモードのままでは、どこかでぶつりと糸が切れてしまったかもしれません。
小林:はい。「家事も仕事も完璧に」と気を張っていると、常に交感神経が優位になり、心身が悲鳴を上げてしまうはずです。特に出産直後は、女性の身体にとって「強制的なリセット」をかけなくてはいけない時期。本当なら「産後の床上げ」と言われるように、産後ひと月くらいは安静期間を持つべきなんですよね。それなのに東京をはじめとする大都市圏では、すぐに社会復帰しなきゃと焦って、1週間くらいで職場復帰したりすることもあります。
香織:「産後の負担を減らして早く動けるように」と復帰を見込んで無痛分娩を選ぶのでしょうが、結果として母体に大きな影響を与えてしまいかねませんから、お仕事のパフォーマンスにも影響が出ないとも限りませんよね…。
小林:せっかく今まで築いてきたキャリアが止まってしまったりする心配もあるでしょう。その不安はとてもよくわかるんです。大都市圏だとその後の育児環境を考えると経済的に仕事から離れられないという事情もあるでしょうね。でも自分に鞭打つママさんたちのお話を聴くにつけ、本当に心配になってしまうんです…。
香織:個々にさまざまな理由はあるでしょうが、「自分の身体が本当はどう感じていて、何を求めているのかという心の声が聴けなくなってしまっている」ということは、とてもつらい身体環境には違いないですから。
小林:そうなんです。子どもにとっても、ママが辛い状況というのは見たくないでしょうし、子どもたちが求めているのは本能的に求めているのは、癒やしの「母性」ですから、「戦闘モード」とは真逆なんですよね。だから、心疾患・重度の高血圧などがある方や、痛みに極端に敏感であるなど医学的に無痛分娩を勧められる場合を除いて、分娩の仕方については、本当によく考えてみてほしいなと思いますね。

ママが主語でいい。ママの幸せは子どもの栄養になる
香織:妊娠でも育児でも、大切なのはママが幸せな状態でいることですよね。小林さんのお話を伺って、改めて「ママが主語になっていいんだ」と確信しました。ママが幸せでなければ、子どもに笑顔を向けることはできませんものね。
小林:本当にその通りです。ママが心から笑える状況を作ることが、子どもにとっても最高に良い栄養になりますからね。
香織:どうしても日々忙しく、余裕のないママたちが、今日からでもできる「心を整える方法」として、小林さんが皆様にお勧めしている方法はありますか?
小林:1日に一度、難しければ5分でもいいので、完全に自分に戻る「自分時間」を確保することです。忙しい毎日は、ヨガの言葉で言えば「生きる活動(生活)」そのもの。でも、その忙しさに飲み込まれるのではなく、「あ、今、私ホッとしてる」「幸せだな」と意識してマインドセットする瞬間が必要なんです。
香織:私も、1日に数回はゆっくりと温かいお茶を飲む時間を意識的に作っています。その数分があるだけで、さっきまでの「戦闘モード」が和らいでいくのを感じられるはずです。
小林:素晴らしい! それを意識して行っているかどうかが大きな差になります。温かいお茶の香りを嗅ぎ、深く呼吸する。それは、地に足をつけ、自分の中にある「足りているもの」に気づく「知足」の教えにも繋がりますよね。外側にキラキラした理想を求めるのではなく、今ここにある自分を満たしてあげること。それが2人目への妊活や、穏やかな子育ての第一歩になりますから。
香織:一人で頑張らなくてもいい。みんなで手を取り合い、特技を活かし合える場を、私たちもこのサイトを通じて作っていきたいです。小林さん、今日は本当に貴重なお話をありがとうございました。
※本記事はインタビュー内容をもとに構成しています。個別の症状や状況に応じた判断や助言を行うものではありません。不明な点がある場合は、医療機関や公的な相談窓口など、適切な相談先をご利用ください。分娩方法の選択については、必ず主治医と十分に相談のうえご判断ください。
【プロフィール】
小林睦子(こばやし むつこ)
子育て応援サロンSVAHA代表。訪問介護員として9年間の現場経験を持ち、全米ヨガアライアンスRYS200をはじめ、マタニティヨガ、子宝ヨガ、ベビーマッサージ、介護予防運動指導など多分野の専門資格を取得。2010年より世田谷区池尻大橋にてサロンを運営し、開設以来、延べ1000組以上のプレママ・ママと向き合ってきた。「孤立した子育てから、コミュニティで育む子育てへ」をコンセプトに、独自のサポート体制を構築。母子支援と地域コミュニティ形成を軸に活動を続けている。
伊東香織(いとう かおり)
株式会社TIGER 専務取締役。創業35年以上のルイボスティー専門メーカーにて、商品の企画開発・広報を担当。自身の不妊治療、4人の子育ての経験に基づき、「妊娠中も、子育て中も。ママの暮らしに寄り添う」をコンセプトに、女性の心と体に寄り添う製品づくりと情報発信を積極的に行う。
Q&A
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無痛分娩は本当に安心な選択なのでしょうか?
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無痛分娩は、痛みの軽減という明確なメリットがある一方で、すべての人に最適だと断言できる選択ではありません。安全性は医療体制、施設の対応範囲、妊婦さんの状態、希望する出産方法によって変わります。また、出産は痛みの有無だけでなく、分娩中の身体反応や産後の回復、赤ちゃんの状態などから複合的に最適な判断を下していくのが理想と言われています。したがって、メリットとリスク、代替案を担当医と確認し、納得できる条件で選ぶことが重要です。
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出産直後48時間が大切と言われるのはなぜですか?
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後編で語られているポイントは、赤ちゃんが生まれた直後に、覚醒とまどろみを繰り返しながら外界に適応し、母親との愛情形成が深くなっていくことです。この時間に、泣きかけへの応答、視線、接触といったやり取りが積み重なることで、「ここは安全だ」という感覚が育つと考えられています。記事は、48時間を「親子の信頼の土台づくりの時間」としてとらえ、産後の関わり方を考えていくことを示しています。
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自然分娩で分泌されるホルモンは、どんな意味があるのですか?
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一般に、出産のプロセスでは痛みや緊張、興奮とともに身体内のホルモン環境が大きく変化します。記事内では、陣痛の過程で痛みを和らげたり多幸感に関わるホルモンが分泌される点を取り上げ、「身体には出産を乗り越える仕組みがある」ということを示唆しています。重要なのは、選択肢を考える際に「痛みの有無」以外の観点があると知ることです。その上で、医療的な必要性や本人の価値観とすり合わせて分娩方法を決める流れが現実的です。










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