「自分で産んだ」と思えるお産を――産婦人科医・竹内正人先生が考える「自然出産」とは

妊娠がわかってから出産の日を迎えるまで、ママたちはさまざまな選択と向き合います。

・どこで産むのか
・どんな出産方法を選ぶのか
・痛みには耐えられるのか
・赤ちゃんは無事に生まれてきてくれるのか

初めてのお産であればもちろん、出産を経験していても、不安がなくなるわけではありません。

今はスマートフォンを開けば、妊娠や出産についてたくさんの情報を知ることができます。

知識を得ることは、これからの選択を考えるうえで大きな助けになります。

一方で、さまざまな体験談や情報に触れる中で、「自分の場合はどうだろう」と迷いが生まれることもあるかもしれません。

では、たくさんの選択肢や情報があるなかで、自分に合ったお産を考えるには、何を大切にすればよいのでしょうか。

今回お話を伺ったのは、長年にわたり産婦人科医として多くの妊娠・出産に向き合ってきた竹内正人先生です。

竹内先生が大切にしているのは、特定の出産方法を「正解」とすることではありません。

竹内先生は、自然出産かどうかだけで、お産の良し悪しが決まるわけではないと話します。大切なのは、女性自身が自分のお産に向き合い、「自分で産んだ」と感じられることだと考えています。

病院と助産院の両方で4人の子どもを出産した経験がある編集長・伊東香織とともに、「自然出産」とは何なのか、そして自分自身のお産を選ぶということについて考えました。

出産の先にある育児と生き方

伊東:竹内先生は現在も産婦人科医として診療を続けながら、自然なお産を支えようとしている助産師さんたちの相談に乗ったり、地域に足を運んだりもされているそうですね。

竹内:そうですね。自然なお産を支える場や人が、以前より少なくなってきていますから、頑張っている方たちと話をしたり、相談に乗ったりしています。自分が何かを「残したい」というより、これまで受け取ってきたものを、次の世代に手渡していきたい。今はそんな感覚が強いですね。

伊東:先生がそこまで「次につなぐ」ということを意識するようになったのは、長くお産の現場に立ってこられた中で、何か変化があったのでしょうか。

竹内:私自身、産婦人科医になった頃は、医療の力で一人でも多くのお母さんと赤ちゃんを救いたい、という気持ちが強かったんです。検査や医療機器、必要な処置を使って、安全にお産を終える。それが産科医の役割だと思っていました。もちろん、それは今も大切です。でも長くお産に立ち会っているうちに、ふと、「無事に生まれた、という結果だけで、お産を見ていていいのだろうか」と思うようになったんです。

香織:無事に出産することがゴールではなく、その後の親子の暮らしまで含めて考えるようになったんですね。

竹内:私たち医療者は、「母子を無事に退院させる」ことまでは一生懸命やります。でも、その親子が、その後どんなふうに暮らし、どんな気持ちで子育てをしているのかまでは、なかなか見えていません。そう考えるようになってから、妊娠中をどう過ごしたのか、自分のお産をどんな経験として受け止めたのか、ということにも目が向くようになりました。お産は、生まれた瞬間で終わる出来事ではありません。その後の子育てや、その人自身の生き方にも、どこかでつながっていくものだと思っています。

香織:出産した瞬間だけを見るのではなく、その前からその後までつながっている……確かに。

竹内:妊娠や出産って、自分の中にもともと備わっていた力に気づく機会でもあると思うんです。「私のからだには、こんな力があったんだ」と感じる。その感覚は、お産だけで終わらず、その後の子育てや、その人の生き方を支える力になることもあるんじゃないでしょうか。

情報が増えるほど、不安も増える?

香織:自分がどう産みたいかを考えることが大切だとしても、今はその前に、いろいろな情報が入ってきますよね。妊婦さんたちを見ていて、先生はそのあたりをどう感じていますか?

竹内:もちろん情報を知ること自体が悪いわけではありません。ただ、調べれば調べるほど、他の人の体験や、めったに起きない症例まで自分に重ねてしまって、「私もこうなったらどうしよう」と、不安がどんどん大きくなることがあるんですよね。

香織:今振り返ると、第一子のときの私は、「自分はどうしたいのか」というより、周りから入ってくる情報に合わせていたところもあったように思います。

竹内:必要な情報を知ることは大切です。ただ、情報を集めれば集めるほど、「今どうなっているのか」「次に何が起きるのか」と、頭でお産を理解し、コントロールしようとしますよね。けれど、お産は本来、すべてを頭でコントロールして進めるものではないと私は思っています。あるところからは、考えることを少し手放して、自分のからだで起きていることを感じ、その流れに身を任せていく。私は、それを「からだに還る」ことだと思っています。

香織:頭で状況を追うことと、体の感覚に任せることは、かなり違うということですね。

自然出産は「方法」だけでは決まらない

香織:先生のお話を聞いていると、「自然出産」という言葉そのものも、私が以前考えていたものとは少し違うように感じます。先生は自然出産をどのように捉えているのでしょうか。

竹内:私は、経腟分娩だったというだけで、それを自然出産と考えているわけではありません。大切なのは、周囲にすべてを任せるのではなく、自分の体でお産の変化を感じながら、その時間を「自分自身のお産」として経験できることだと思います。そのためには、安心して身を任せられる環境と、必要なときにはきちんと支えてくれる人がいることが大切です。そういう中でお産をすると、あとになって、「私は、こうやって産んだ」と、自分の言葉で語れるお産になっていくんですよね。

香織:安心できる環境の中で、頭で状況を追い続けるというより、体の感覚に任せていくということですか?

竹内:私はそれを「脳を使わないお産」と表現しているんです。もちろん、本当に脳を使わないという意味ではありません。たとえばお産の途中で、「今、何センチ開いていますか」「あとどれくらいで産まれますか」と、常に状況を頭で確認していると、意識が体から離れて、また考えるほうに戻ってしまうんです。

香織:なるほど。

竹内:そうですね。頭で「今どうなっているか」を追い続けるのではなく、陣痛や体の変化を感じながら、その流れに身を任せていく。私は、そういう状態を「オートパイロット」、つまり身体の自動運転に入るような感覚だと考えています。産もうとするというより、からだが産んでいく。周囲は、その流れを邪魔しないことが、とても大切なんです。

香織:今のお話を聞いて、自分の4回のお産を振り返ってみたんです。最初の2人は病院で出産しました。そのときは確かに、「あとどれくらいで生まれそうですか」と聞いたり、「今、何センチ開いています」と教えてもらったりしていました。無意識でしたが、頭ではずっと状況を追っていたんだと思います。一方、助産院で出産したときは、そういうことをほとんど考えていなかったんですよね。

竹内:病院でのお産と助産院でのお産では、ご自身の中で何が一番違いましたか?

香織:もちろん、病院でのお産も助産院でのお産も、私にとってはどちらも幸せなお産です。4人目のときは、それまでの出産経験もあったので、「今度はこういうお産にしたい」というイメージを自分の中でしっかり持って臨みました。家族にも立ち会ってもらって、自分が望んでいた形で赤ちゃんを迎えることができたんです。4回とも幸せなお産でしたが、振り返ってみると、4人目は特に「自分が思い描いていたお産ができた」という実感が強くて、いちばん幸せなお産だったなと思います。

竹内:そういうお産は、あとから自分の言葉で振り返ることができるんですよね。「あのとき、こんなふうに感じた」「こうやって赤ちゃんを迎えた」と、自分自身の経験として語れる。私は、そこがとても大切だと思っています。

自分の力を出せたと思えるお産

香織:ここまで伺ってきて、先生が大切にされているのは、出産方法そのものではなく、その人がどんなふうにお産を経験できたか、ということなのかなと感じます。

竹内:はい。結果的に帝王切開になることもありますし、思い描いていた形と違うお産になることもあります。でも、大切なのは、「予定通りだったか」だけではありません。その中で、自分なりに力を出せたと思えるかどうかは大きいはずです。たとえばスポーツでも、試合には勝ったけれど自分の力を出せなかったときと、結果は負けでも、自分の力を出し切れたときでは、心に残るものが違いますよね。お産にも、少し似たところがあると思っています。

香織:結果だけを見て、「いいお産だった」「そうではなかった」と決めるものではないということですね。

竹内:私たち医療者は、必要なときにはもちろん医療的な対応をします。でも、医療が必要でないときまで、医療者が前に出る必要はないと思っています。産むのは、その人です。私たちは少し後ろにいて、「何かあったら、この人たちがいるから大丈夫」と感じてもらえる。その安心があるからこそ、女性は自分のからだに身を任せられる。私は、医療者の立ち位置はそのくらいがいいと思っています。

香織:先生が、出産を結果だけではなく、その人自身の経験として見るようになった背景には、どんなことがあったのでしょうか。

竹内:私にとって大きかったのは、グリーフケアに出会えたことです。産婦人科は命が生まれる場所ですが、同時に、赤ちゃんを亡くすという、とても大きな喪失に向き合う場所でもあります。そこで教えられたのは、起きてしまった出来事そのものは変えられなくても、その経験をどう受け止め、その意味を、自分の人生の中にどう置いていくかによって、その後は変わり得るんだということでした。

香織:つらい経験だからこそ、無理に忘れようとするのではなく、どう受け止めていくかが大切なんですね。

竹内:そうですね。たとえば、悲しいことを悲しいと言えること。時間がかかっても、自分の言葉でその経験を語れるようになること。私は、そこがとても大切だと思っています。
 
香織:それは、先ほどの「お産を自分の言葉で語れる」という話とも重なるように感じます。

竹内:赤ちゃんが元気に生まれたかどうかという結果だけではなく、その人にとってどんな経験だったのか。妊娠や出産は、女性や家族にとって大きな出来事です。そこから価値観を揺さぶられて、その後の生き方まで変えることもあります。だから私は、お産を結果だけで見るのではなく、その人自身の経験として受け止められることが大切だと思っています。

香織: 先生は今、そうしたお産を支えようとしている方たちの相談にも乗りながら、次の世代につなぐ活動をされているんですよね。

竹内:私が残したいのは、これから子どもを産む人たちが、自分に合ったお産について考え、それを支えてくれる人や場所に出会える環境です。そうした選択肢が次の世代にもきちんとつながっていくように、今の私にできることを続けていきたいですね。

自分のお産について考えてみる

出産には、病院や助産院などの産む場所から出産方法にいたるまで、さまざまな選択肢があります。それぞれの特徴を知ることはもちろん大切ですが、その中で「自分はどんなふうに赤ちゃんを迎えたいのか」を考えてみることも、お産に向けた準備の一つです。

そして実際のお産は、必ずしも思い描いた通りに進むとは限りません。医療の力が必要になることもあれば、予定していた方法とは違う形になることもあります。

それでも、その時間をどう過ごし、どんな気持ちで赤ちゃんを迎えたのかは、一人ひとりの中に残っていきます。

竹内先生のお話から見えてきたのは、出産を「どの方法で産んだか」という結果だけで捉えるのではなく、自分自身の経験として受け止めていくことの大切さでした。

妊娠や出産を通して感じたこと、考えたことは、その後の子育てや生き方につながっていくこともあります。

だからこそ、周囲の情報も参考にしながら、自分自身にも「私はどうしたい?」と問いかけてみる。そんな時間を持つことが、自分らしいお産を考える第一歩になるのかもしれません。

※本記事は、インタビューをもとに、妊娠・出産や自然出産について考えるための一つの視点をご紹介するものです。出産にはさまざまな方法や選択肢があります。ご自身の状況に応じて、医師や助産師などとも相談しながら、自分に合ったお産について考える参考としてお読みください。

Q&A

自然出産を希望する場合、どのような環境を選ぶことが大切ですか?

出産方法だけでなく、自分が安心して過ごせることや、必要なときに医療的な対応を受けられることも大切です。「ここなら自分の希望を話せる」「安心して任せられる」と感じられるかどうかも、出産する場所を考える一つの視点になります。

自然出産では、医療的な処置を受けないほうがよいのでしょうか?

自然出産は、医療を否定するものではありません。経過によって医療的な対応が必要になることもあるため、必要なときには適切なサポートを受けながら、自分自身もお産に向き合えることが大切です。

自分に合った出産方法を考えるには、何から始めればよいですか?

まずは「どんな環境で赤ちゃんを迎えたいか」「お産で何を大切にしたいか」を考えてみましょう。そのうえで情報を集め、医師や助産師と話しながら、自分が納得できる選択肢を探していくことが一つの方法です。

【プロフィール】

竹内正人(たけうち まさと)

産科医、医学博士。1987年日本医科大学卒業。米国ロマリンダ大学で周産期生物学、日本医科大学大学院で産婦人科学・免疫学を学び、葛飾赤十字産院では産科部長として周産期医療に携わる。JICA(国際協力機構)の母子保健専門家として海外での医療協力にも従事。周産期グリーフケアにも長く取り組み、現在は「未来創育産科医×つなぎすと」として活動。「ReBirth JAPAN|自然出産創育プロジェクト」を主宰し、noteでも自然出産や周産期医療について発信している。

伊東香織(いとう かおり)

株式会社TIGER 専務取締役。創業35年以上のルイボスティー専門メーカーにて、商品の企画開発・広報を担当。自身の不妊治療、4人の子育ての経験に基づき、「妊娠中も、子育て中も。ママの暮らしに寄り添う」をコンセプトに、女性の心と体に寄り添う製品づくりと情報発信を積極的に行う。

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