「個育て」から抜け出す子育てを選ぼう――多世代コミュニティと無痛分娩・出産直後48時間のリアルを考える《前編》

愛する子の温もりをその手に感じると、愛おしさがこみあげてくるものですよね。

同時に、言葉にできないほどの責任感や不安に押しつぶされそうになったことはありませんか?

「完璧な母親にならなければ」
「理想の育児を全うしなければ」

そんな強い思いが、いつの間にか自分を追い詰め、「子育て」が、社会から切り離されたような孤独な「個育て」(孤育て)へと変わってしまうことがあります。

ワンオペ育児、核家族化、地域との断絶。現代のママたちは、かつてない孤立の中で子育てをしています。

今回は、東京都世田谷区で、ママのための子育て応援サロンとして評判のSVAHA(スワハ)を運営されている小林睦子さんをお迎えしました。

小林さんのサロンでは、ヨガやボディーワークを通じて妊活・胎教・産後ケアを行うほか、「糸つなぎ」というアートによって、心を穏やかに整え、自分自身と静かに向き合うワークを広められています。

実は、小林さんも私、伊東香織も4人の子がいるという共通点が。ですので、話せば話すほど、お互いに共感できるところが多く見つかり、何度もうなずき合っては笑い合う対談になりました。

対談を通して見えてきたのは、ママさんたちが自分自身の「幸せ」を取り戻すことの大切さでした。

本記事では、孤立しがちな子育てから抜け出すヒント、多世代コミュニティの可能性、そして後編につながる「無痛分娩」や「出産直後48時間」の重要性まで、掘り下げていきます。

理想の育児が生んだ「孤独」という深い淵

香織:いきなりですが、びっくりです! 小林さんも4人のお子様のママさんなんですよね。伊東家も4人子どもがいますので、とてもシンパシーを感じています。

小林:私もですよ(笑) 私は東京におりますが、都内で4人の子どもがいると話すと「都内の環境下で4人育てるなんて大変そう」と驚かれることが多いんです。でも、サロンにお越しになったり、相談をお寄せいただく方からは、「睦子先生が楽しそうに働いて、楽しそうに子育てをしているなら、私も2人目、3人目を産めるかも」と言われることも多いんですよ。それが何よりのやりがいになっていますね。

香織:それは素晴らしいですね! 最初からそんな風に「楽しむ育児」ができていたのですか?

小林:実は、決してそういうわけではありませんでした。長女の時は高い理想を掲げ、とにかくオーガニックで完璧な育児を目指していたんです。

香織:例えば、完全母乳、布おむつ、自然育児などのような?

小林:はい。そうなると、3時間おきの授乳だけでなく、布おむつが濡れるたびに起きるのので睡眠時間は1時間おきになり、「自分は今、寝ているのか起きているのか」すら分からなくなっていったんですね。理想に近づくほど、誰にも頼れなくなる。これが「個育て」が始まる瞬間なのかもしれません。

香織:布おむつを夜中も…。それは想像を絶する過酷さです。充実感はあるかもしれませんが、身体への負担は計り知れませんね。

小林:以前、ベビーシッターや教育現場での経験もあったので、子どもと関わるのは得意だと思い込んでいたんです。でも次第に心がどんどん疲弊していき、「なぜ自分の子なのに上手くいかないんだろう」と、理想と現実の落差に1人で悩むようになっていってしまったんです。

孤立した「個育て」から、地域で育む「コミュニティ」へ

香織:お辛い時期だったんですね…。その暗いトンネルから、どのようにして抜け出されたのですか?

小林:何か別のことに意識を向けなくては自分自身が壊れてしまうと考え、かつて趣味だったヨガを再開したんです。すると、「自分と同じように、誰にも言えずに悩んでいるお母さんたちがたくさんいる」と気づくことができ、今度はその方たちが集まれる「場」を提供したいと思うようになりました。それが15年ほど前、2人目を出産したタイミングでしたね。

香織: SVAHAさんの誕生秘話ですね。私も長女の時に布おむつを経験したので、小林さんの痛みはよく分かります。でも、私は4人目の時にようやく「甘えること」の大切さに気づきました。長女気質で何でも自分で解決しようとするタイプでしたが、幸い同居している家族に「助けて」と言ってみたら、案外、喜んでもらえたりして。

小林:そこですよね。1人でなんでもやろうとしてしまう「個育て」やひとりで悩みを抱える「孤育て」ではなく、周囲の人と助け合いながら育てていくことも大切。子育ては本来、母親一人の責任ではありません。地域、世代、社会全体で担う営みです。それこそが、人間社会が本来持っていた豊かさだと思うんです。そういうコミュニティを生み出す活動にも力を入れているんですよ。

世代をつなぎ孤立をほどく、アートという架け橋

香織:ママが孤立してしまう子育てをなくすコミュニティ、とても素敵ですね。

小林:今の日本は核家族化を通り越して、一つひとつの家庭がバラバラに孤立してしまっていますよね。私が大切にしているのは、ママ友同士の「横の繋がり」だけでなく、子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまでが繋がる「縦の軸」を地域の中に作ることなんです。

香織:縦の軸、ですか。最近はご近所付き合いも減っていますし、世代を超えて関わる機会は本当に貴重ですよね。

小林:そうなんです。実は、孤立しているのは子育て世代だけではありません。都内には、誰とも接点を持たず孤独死の不安を抱える高齢者の方もたくさんいらっしゃいます。一方で、学校に行けず自信を失っている「不登校」の子どもたちもいます。私は、子育て支援と地域包括ケアを「アート」を通じて繋げる活動を世田谷区で行っているんです。

香織:それが公式サイトやInstagramで紹介されている「糸かけアート」ですね⁉

小林:はい。このアートは、キャンパス(ボード)に釘をうち、その釘に数字を数えながら、カラフルな糸をかけて編んでいくんですね。実はドイツのシュタイナー教育では素数や足し算かけ算に親しむ手法として一般的なんです。

香織:わあ…すっごく綺麗! 曼荼羅のような作品もあれば、人の顔を描くようなこともできるんですね!

小林:心理学者のユングは、曼荼羅を使った治療で患者の心の安定をはかっていたと言われています。実際、糸かけ曼荼羅で糸をかけていると、気持ちが和らぎ、自分自身と向き合うきっかけを作ってくれるんです。

香織:なるほど! 自分自身と向き合うだけでなく、第三者と交流するときも、余計な感情や距離感がなくフラットな気持ちで接することができそうですね。

誰かの先生になる体験が、子どもの自己肯定感と自信を育てる

香織:子どもたちが「教える側」になるんですね! それは子どもたちにとって、すごい自信になりそうです。

小林:ええ。学校という枠組みの中では自信を失ってしまった子も、「誰かに必要とされている」「自分には教えられることがある」と実感することで、自己肯定感が劇的に上がります。自己肯定感は、褒められることよりも「役割を持つこと」で育ちますからね。高齢者の方にとっても、孫のような世代と関わることは大きな脳の刺激になりますし、何より「自分はまだ社会と繋がっている」という喜びになります。

香織:まさに、お互いが救い合っているような「優しさの循環」ですね。

小林:そうなんです。今の社会は世代ごとに分断されすぎていて、お互いのことを知らないから、電車で席を譲る・譲らないといった小さなことでトラブルが起きてしまう。でも、一度こうして顔の見える関係になれば、「あの世代の人たちは、本当はこんなに優しいんだ」と気づけるはずです。ママたちにとっても、こうした多世代の目がある場所で子育てをすることは、一人で全てを背負わなくていいという「心の解放」に繋がっていくのだと信じています。

優しさが循環する場所が、子育てを救う

何もかもがママの両肩に背負われてしまうと、幸せなはずの子育てが辛くしんどいものに変わってしまう…。

小林睦子さんのお話は、子育ての中で、知らず知らずのうちに心をすり減らしているママたちの本音に、優しく寄り添ってくれるものでした。

また、小林さんが広めている「糸かけアート」の世界は、そんな閉ざされた空気をパッと明るく変えてくれるものでした。

ママ友同士の「横の繋がり」だけでなく、おじいちゃんやおばあちゃん、そして子どもたちが自然に支え合い、お互いの存在を認め合う。

そんなかつての多世代のコミュニティに代表されるような、「支え合い」の場は身近にあることで、ママ一人で全てを背負い込むプレッシャーは、間違いなく軽くなります。

孤立、ワンオペ育児、産後うつ、少子化問題。これらの背景には「つながりの喪失」があります。こうした面から考えると、多世代コミュニティは、子育て支援の未来モデルかもしれません

続く後編では、この「繋がり」のお話をさらに一歩深め、都会ならではの出産や「無痛分娩」のこと、そしてお仕事で奮闘するママが、どうすればもっと自分を大切に出産に向き合っていけるのか、分娩のリアルについて深く語り合っていきます。

※本記事はインタビュー内容をもとに構成しています。個別の症状や状況に応じた判断や助言を行うものではありません。不明な点がある場合は、医療機関や公的な相談窓口など、適切な相談先をご利用ください。

【プロフィール】

小林睦子(こばやし むつこ)
子育て応援サロンSVAHA代表。訪問介護員として9年間の現場経験を持ち、全米ヨガアライアンスRYS200をはじめ、マタニティヨガ、子宝ヨガ、ベビーマッサージ、介護予防運動指導など多分野の専門資格を取得。2010年より世田谷区池尻大橋にてサロンを運営し、開設以来、延べ1000組以上のプレママ・ママと向き合ってきた。「孤立した子育てから、コミュニティで育む子育てへ」をコンセプトに、独自のサポート体制を構築。母子支援と地域コミュニティ形成を軸に活動を続けている。

伊東香織(いとう かおり)
株式会社TIGER 専務取締役。創業35年以上のルイボスティー専門メーカーにて、商品の企画開発・広報を担当。自身の不妊治療、4人の子育ての経験に基づき、「妊娠中も、子育て中も。ママの暮らしに寄り添う」をコンセプトに、女性の心と体に寄り添う製品づくりと情報発信を積極的に行う。

Q&A

「個育て(孤育て)」とは何ですか?

「個育て」とは、本来は家族や地域で支え合うはずの子育てが、実質的に母親1人の責任に寄ってしまう状態のことです。核家族化やワンオペ化で助けを頼める先が減り、理想や正解を追うほど「自分で抱えるしかない」という思考になりがちです。その結果、疲労や自己否定が積み重なり、子育てが社会と切り離された孤独な営みに変わってしまいます。

理想の育児を目指すほど苦しくなるのはなぜですか?

理想を掲げること自体が悪いのではなく、理想がママの耐えられる負荷を超えてしまうと苦しみになってしまいます。完全母乳や布おむつ、無添加などを徹底すると、睡眠が分断され、段取りも増え、失敗時のダメージも大きくなりやすく、「弱音を吐けない」「手を借りにくい」心理が強まってしまうと、理想と現実の落差を1人で受け止めなくてはなりません。本文の体験談は、その負荷がどこで限界を超えるかを具体的に示しています。

子どもの自己肯定感を育てるには何が大切ですか?

自己肯定感は「褒められること」だけで育つよりも、「役割を持って誰かの役に立つ体験」で伸びやすいと考えられます。小林さんが世田谷区で開催している糸かけアートによる交流プロジェクトのように、子どもが教える側に回れる仕掛けがあると、「自分には渡せるものがある」「必要とされている」という実感が生まれます。それは成績や評価とは別軸の自信になり、親側も「全部を背負わなくていい」空気がつくれます。多世代交流は、子どもと大人双方にとっての回復装置として機能します。

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