
「胎内記憶」――それは子どもたちが語る、ママのお腹の中にいた頃の記憶や、この世界に生まれてくる前の不思議な体験のことです。
かつては「口にしてはいけない話」とされてきたこの現象が、いま、不妊や育児に悩む親たちにとって、大きな支えになっています。
その研究を長年牽引してきたのが、産婦人科医の池川明さんです。25年以上にわたる臨床と研究の中で、胎内記憶を語る子どもたちと向き合い続けてきました。
池川さんによると、2007年頃から胎内記憶を語る子どもが急増したといいます。そして、お腹の中にいる時から親子で対話を重ねてきた子どもたちが20年後にどう育ったか――追跡調査で見えてきたのは、「やりたいことをやって、笑顔で、仲間から頼られるリーダーになっている」という姿でした。
「赤ちゃんはママの『心の光』を頼りに、自ら生まれてくる場所を選んでくる」
この言葉は、妊活や不妊に悩んで自分を責めてきた人たちへの、静かなエールでもあります。
今回は、命の目的と家族の絆をめぐる物語をお届けします。読み終えたとき、あなた自身の存在と、我が子との出会いが、少し違って見えるかもしれません。
子どもの胎内記憶を引き出す「聞き方」があった
香織:実は我が家にも4人子どもがおりまして、一番上を10年前に授かった時から、池川さんが提唱されている「胎内記憶」については存じ上げていたんです。初めてこの話を聞いたときは、本当に不思議に感じましてね。子どもはやはり、お腹の中にいた時のことや、生まれてくる前のことを覚えているものなのでしょうか。
池川:ええ。胎内記憶とは、お腹の中の記憶だけでなく、そのさらに前の、いわば「空の上」にいた時の記憶なども含みます。もちろん成長とともに忘れてしまう子もいますが、しっかり覚えている子たちの話は、とても作り話には聞こえないリアルさと精緻さがあるんですよ。
香織:実は私も子どもたちに聞いてみたことがあるんです。でもなかなか答えてもらえなくて(苦笑)
池川:もしかしたら疑うようなトーンで聞いていませんでしたか? 「本当にあったの?」と疑い交じりで聞くと、口を閉じてしまうんです。逆に「そうだよね、当たり前だよね」というニュアンスを込めてさりげなく聞くと、ぺらぺらと話してくれる子が多いですよ。

2007年を境に、胎内記憶を語る子どもたちが増加
香織:以前に比べて、胎内記憶を語る子どもたちが増えたとお感じになっているそうですね? なぜ増えたんでしょうか?
池川:2007年ごろを境に、明らかに増えていますね。理由としては、いわば「神様の計らい」とでも言いましょうか。記憶を持って生まれてくることへの制限が、解禁されたのではないかと思っています。私が関わらせていただいたドキュメンタリー映画『かみさまとのやくそく』(2016年/監督:荻久保則男)に、すみれちゃんという少女が出演してくれたのですが、ちょうど2007年生まれの彼女は、いま大学生になっています。彼女に「胎内記憶を話してはいけないと聞いているんだけど、そうなの?」と聞いたら、「いまは仕組みが変わって、覚えていたい子は覚えていていいし、忘れる子は忘れていいの。自分で決められるようになったんだよ」と話していました。
香織:自分で決められるとは、驚きですね! その前の世代は、「喋ってはいけない」と神様から言われてきた時代だったというわけですか。
池川:そうです。ところが今は逆で、「大人に伝えたいんです。ちゃんと話を聞いてくれる大人を探しました」と言って生まれてくる子も増えているほどです。
香織:それはつまり、受け止める側の大人の許容度が変わってきた、ということでしょうか。
池川:はい。特にママですね。昔は子どもが胎内記憶を話し始めると「そんなこと決してよそで言っちゃいけません」と否定してしまうことが多かった。でも今は「そうなの? へえ、すごいね! それで?」と面白がって聞いてくれるママが増えているんです。子どもって、ママのことを一番信じているじゃないですか。そのママが信じてくれると「言ってよかった」と感じて、もっと話してくれるようになる。逆に否定されると、一番信じたい人に信じてもらえなくて悲しくなるんです。
香織:確かに、スピリチュアルな話題を禁忌のようにとらえる時代ではなくなっていますよね。もっと自然に、当たり前のように語られるシーンが増えました。池川さんの著書の中で、スピリチュアルな現象と科学が、実はとても近いところにあるという記述を読んだのですが、そういう認知が広まってきたと言えそうです。
池川:そうなんですよ。量子力学の発展によって、スピリチュアルと物理学が融合し始めている感じがしますよね。スピリチュアルだけだとなんとなく浮いた話に聞こえてしまうけど、物理学の視点で見ると実は同じことを言っているということも少なくありません。言い方が違うだけで。
香織:だからこそ、ぜひ多くのママに、一度「胎内記憶」と「対話」について知ってほしいですよね。昨今、妊活や不妊で悩んでいる方が本当に多く、その理由として社会情勢や食環境など、いろんな要因があるとは思うのですが、胎内記憶の視点から見ると、また違う角度で悩みのヒントが見つかるかもしれないと思います。

赤ちゃんはママの「心の光」を頼りにやってくる——妊活・不妊を胎内記憶の視点で考える
池川:子どもたちに話を聞いていると、赤ちゃんは私たちとは違う次元からママのことを見ているらしいんです。そこには何万人という候補がいて、その中からわざわざそのママを選んでやってくる。「このママなら来させてくれる」という願いを持って。
香織:子どもたちは、どうやってママを見つけるんでしょうか。
池川:先ほどご紹介したすみれちゃんは「赤ちゃんはママの心の光を頼りに来る」と言っていました。ママが心の光を放っていると、それを見つけて飛び込んでくる。ところが、その光が見えないと、近くまで来ているのにママを見つけられないんですって。科学の世界では受精の仕組みは説明できても、そこに「目的」があると考えることはありません。でも胎内記憶の視点を持つと、「この子はどんな目的で私を選んでくれたんだろう」という、豊かな問いが生まれてくる。赤ちゃんはママを選んで、どうにかしてほしいという願いを持ってやってくるわけですから、妊娠や子育てに向き合う気持ちがまったく変わってきますよね。
香織:確かに、不妊でお悩みの方も、問題をとらえる「形」が変わってきそうですね。
池川:実は、子どもたちに聞くと、「医学的な不妊症の方というのは実はそれほど多くないんじゃないか」と思えるような記憶がよく語られるんです。ママは本来、妊娠する力を持っているんですが、無意識のうちにそれを自分でブロックしている、と。科学的なエビデンスに基づいたコメントではありませんが、胎内記憶を多く聞くにつけ、そうとしか思えないことが多いんです。例えば、犬や猫って、出産する時には人気のない静かな場所に一人で身を潜めますよね。人も同じで、出産にはそれだけ、落ち着いた環境が絶対に必要なんです。ところが今のママたちは仕事や人間関係で常に強いストレスにさらされてしまいがちですよね。
香織:その通りですよね! 心から休まる時間がなかなか取れないというお話を聞くと、本当に心配になってしまって…。
池川:自然界でストレスがある状態というのは、捕食される側の動物が、ライオンやヒョウに狙われている瞬間のようなものなんです。常に緊張して、いつでも逃げられる体勢でいなければならない。人間界では捕食こそはありませんが、仕事や人間関係のストレスも、体にとっては命に関わる緊急事態と同じ。そうなると「今は自分の命を守るのが先で、子どもを産んでいる場合じゃない」と判断してしまう。
香織:実は私も、4人いる中で2人目だけなかなか授からなかった時期がありました。振り返ると、当時は心身ともに相当なストレスがかかっていて、まさに「今は無理」という状態だったんだと思います。
池川:そうでしょう。妊娠中ってとても無防備な状態ですから、捕食する側からすれば格好の標的ですよね。だから余計に、安心できる環境が必要なんです。もっと穏やかな気持ちになれれば、自然に心の光が戻ってきて、赤ちゃんが来やすくなるのにな…と思いますよ。
香織:赤ちゃんが来やすい心の状態ですか。そういえば、「治療をやめた途端に妊娠した」という話、よく聞きますよね。意気込んでいた力が抜けたとたんにうまくいくといいますか。
池川:はい、「もう妊娠は諦めました」と手放した瞬間に、心がパッと光る。すると赤ちゃんが「あ、目の前にいた!」と見つけて飛び込んでくるんです。「赤ちゃんが欲しい」「作らなきゃ」という強い思い——いわゆる「我(が)」が強すぎると、それが逆にノイズになって光を遮ってしまうようなんですね。
香織:こだわりを手放すことが、かえって近道になるということですね。
池川:そうなんです。ただ、妊娠・出産のゴールを最初からきちんと描いておくことも忘れないでほしいんですね。
香織:ゴールというのは?
池川:妊娠すると「いい病院でお産したい」など、ハード面ばかりに目が向きがちです。でも実は、お産の後こそが本番。そこへの準備が、すっぽり抜け落ちてしまっていることが多いんです。
香織:お産がゴールになってしまっている、ということですね(笑)
池川:赤ちゃんはママをわざわざ選んで、「このママなら来させてくれる」という願いを持ってやってくる。だからこそ「この子と一緒に、こんな未来をつくりたい」というビジョンを持った中で妊娠・子育てに向き合ってほしいんです。そのビジョンがあるだけで、妊活に向き合う心持ちがふっと軽くなって、心の光も自然に輝き始めるのではないかと思いますよ。

流産・死産は、ママのせいではない——胎内記憶が教える「命の意味」
香織:少しネガティブな話になるかもしれませんが、流産をしてしまった子も、やはり何か目的をもってママとパパを選んできたのでしょうか?
池川:流産というのは、ママにとっては本当に辛く、身を切られるようなことですよね。ですが赤ちゃんの視点だと、実は「ママのお腹に来られただけでよかった!」という感覚だったりもするんです。
香織:意外ですね。
池川:以前、小学生の子に「お空の上では、一人のママに対して何人くらい子が待っているの?」と聞いたら、「3万人かなあ。もっと多いかも」と言っていました。しかも日本はとりわけ人気が高くて、ずらりと列をなして待っている子が多いんですって。そんな熾烈な競争を勝ち抜いた、たった一人だけがそのママのお腹に入れる。
香織:3万人……!想像をはるかに超える倍率ですね。
池川:しかも聞くと、「流産でもいいから行く」という子が少なくないんです。長く生きたい子は後回しになるんですが、「流産でいいから行かない?」と声がかかると「じゃあ僕が行く」ってすっと手を挙げる子がいる。だから、たとえ短い期間だったとしても、赤ちゃんにとっては遊園地の入園チケットをもらったようなものなんです。アトラクションには乗れないし、3時間で帰らなきゃいけないとしても、「中に入れたこと自体が嬉しくて嬉しくて仕方ない!」というのが赤ちゃんの正直な気持ちなんですよ。
香織:それでも、ママはどうしても「私が無理をしたから」など自分を責めてしまいますよね。
池川:そうなんです。「赤ちゃんいらない」と思いながら妊娠して、流産や死産を経験したママで、喜んだ人は私が知る限り一人もいません。みんな泣くんです。「いらない」というのは頭で思っていることで、心の奥では愛がいっぱいある。赤ちゃんは、その心の奥の愛をちゃんと感じ取って、やってくるんです。
香織:頭で思っていることと、心の奥にある気持ちが、真逆のこともあるんですね。
池川:そうなんです。「こんな時に妊娠して都合が悪い」と思っていたとしても、深いところでは愛いっぱいに迎え入れている。赤ちゃんはその扉が開いている隙間を見つけてやってくるんですね。流産した赤ちゃんの魂と対話するワークでも、9割以上の方が赤ちゃんと繋がることができ、皆、「赤ちゃんが全然悲しんでいない」ことに気づくんです。
香織:赤ちゃんは、悲しんでいない…?
池川:ええ。むしろ喜んでいるんです。なぜ喜んでいるのかを赤ちゃんに聞いてもらったら、「ママとパパが『来ていいよ』と許可してくれたから」なんだそうです。子どもたちにとってはそれが嬉しくて嬉しくてたまらなくて…。だから流産でお別れになったとしても、ママを責めたり、悲しんだりはしていないんです。この話を中国でしたとき、会場のママたちが泣いて「救われました」とおっしゃっていて。
香織:ママと子どもの絆は世界共通ですよね。どこの国でも、どんな状況下でも…どんなに人が争っていたとしても…。
池川:受胎した瞬間から、赤ちゃんはママの五感をまるごと共有しています。ママが見た景色、聞いた音楽、食べた美味しいもの、すべてが赤ちゃんへの刺激になり、満足感につながっている。ママの目を通して外の世界を見たとき、道端の名もない小さな白い花を見ただけで「世界ってなんてきれいなんだろう」と感じるほどの鮮烈な体験をしているんです。
香織:流産が決まった後も、その共有は続いているのでしょうか。
池川:ええ。心臓が止まった後も、肉体がまだお腹にある間はママの情報が流れ込んでいます。だから私はママにこう伝えます。「ごめんね」と泣いて過ごすよりも、赤ちゃんが空に帰るまでの間に、できるだけたくさんのお土産を持たせてあげてほしい、と。
香織:お土産、ですか。
池川:そうです。いいものを見て、いい音楽を聴いて、美味しいものを食べて——五感で感じるすべてを、赤ちゃんへのお土産にしてあげる。そう伝えると、泣いていたママが「そうします」と笑顔で帰っていくんですよ。悲しんでいいんです、悲しくて当然です。ただ、赤ちゃんに悪いことをしたという思いだけは間違っている。本当に、間違っているんです。だってそうでしょう? 赤ちゃんは喜んでいるんですから。
香織:自分を責めるのではなく、「来てくれてありがとう」と一緒に喜んであげることが、赤ちゃんへの一番の贈り物になるんですね。

※
胎内記憶の視点に立つと、不妊も流産も、その意味がまるで変わってきます。赤ちゃんは自らママを選んでくる存在であり、受胎の瞬間からママの五感をすべて共有している。どんなに短い命であっても、その時間は愛に満ちた共同体験だったのです。
だとすれば、自分を責めることほど、赤ちゃんへの誤解はないのかもしれません。
必要なのは、完璧な準備でも強い意志でもなく、心に光を灯しておくこと。赤ちゃんはその光を頼りにやってくる——池川さんの言葉は、そう示してくれているのかもしれません。
後編では、子どもが親を怒らせてまで「心の曇り」を晴らそうとする理由、「7歳までの神様回線」の活かし方、そして夫婦が互いを癒やし合うためのヒントを伺います。
【プロフィール】
池川明(いけがわ あきら)
産婦人科医・医学博士。1989年に横浜市に池川クリニックを開設し、28年間で約2,700件の出産に携わる。胎内記憶研究の第一人者として、数多くの論文・書籍の執筆やメディア出演を通じて、その普及に努めてきた。ドキュメンタリー映画『かみさまとのやくそく』(2016年/監督:荻久保則男/製作著作:株式会社熊猫堂)では主演を務め、観客動員数は31万人にのぼる。現在は胎内記憶を世界に広める活動に専念し、不妊や流産に悩むママたちへの温かなメッセージを届け続けることで、多くの女性の心の支えとなっている。著書に『子どもは親を選んで生まれてくる』(日本教文社)など多数。
伊東香織(いとう かおり)
株式会社TIGER 専務取締役。創業35年以上のルイボスティー専門メーカーにて、商品の企画開発・広報を担当。自身の不妊治療、4人の子育ての経験に基づき、「妊娠中も、子育て中も。ママの暮らしに寄り添う」をコンセプトに、女性の心と体に寄り添う製品づくりと情報発信を積極的に行う。
FAQ
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胎内記憶とはどのようなものですか?
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胎内記憶とは、子どもがママのお腹の中にいた頃のことや、この世界に生まれてくる前の記憶を持っている現象のことです。2007年頃からは、記憶を持つかどうかを自分で決められるようになったと言われており、大人に積極的にメッセージを伝えようとする子どもも増えています。
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妊活を諦めた途端に妊娠することがあるのはなぜですか?
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「どうしても子どもが欲しい」という強いこだわりや焦りが、赤ちゃんから見えるママの「心の光」を遮ってしまうことがあるからです。こだわりを手放して心が穏やかになると、その光が自然に輝き始め、赤ちゃんがママを見つけてやってくるようになります。
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流産を経験した際、赤ちゃんはどのように感じているのでしょうか?
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たとえ短い期間であっても、ママのお腹に来られたこと自体が、赤ちゃんにとっては大きな喜びです。何万人もの中から選ばれたただ一人として、「来させてもらえた」という感謝の気持ちを持っています。「赤ちゃんは悲しんでいない」、その事実が、自分を責め続けているママたちへの、何よりの救いになるのかもしれません。











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